マイノリティ・インタレスト取得M&Aは何故流行っているのか

最近の日本企業の海外M&Aに目立つ現象は株式の過半数を取得したり、主導権を取ることをせず、マイノリティ・インタレスト取得または対等な50-50の経営権掌握でとどまるケースだ。自社商品の海外マーケットを確保することがM&A取引の最終目的であるならば、主導権を取得しない選択は長期的にさまざまな問題をひき起こす。

こういったマイノリティ・インタレストの取得にとどまる原因は、主に、外国対象会社を自ら経営することに対する自信の無さだ。とりあえず主導権を取らずに、様子をみて、新しいマーケットに少しずつ参入してみよう、という用心堅固な発想だ。このような作戦は短期的に楽かもしれないが、長期的にみるともう一方の株主との対立は避けがたい。多くの場合、提携型M&Aは難しい選択を先送りするだけだ。

ターゲット会社の100%未満を取得することによって2種類の不都合が生じる。

まず、会社法の一般原理として、複数の株主が存在する限り、一者のみの株主の利害を優先することはできない。従って、日本企業の目的がターゲット会社を通じて自社の商品を販売することであれば、最初から株主間の利益相反が発生する。

2011年5月に発表されたコクヨ(7984)によるインドの文具・画材メーカーであるカムリン社(Camlin Ltd.)の50.3%取得は参考になる。(プレスリリースはこちら)

100%子会社であれば、親会社であるコクヨの都合に合せて経営方針を好きに決めることが出来るが、他の株主が残っていればお互いの利害関係の引っ張り合いが生じるのだ。カムリン社の販売店ネットワークを利用してコクヨのノートブック、その他の製品をインドの消費者に売ることはコクヨの主要目的だとされている。であれば、他の株主がいる限り、最初からコクヨからカムリンへのノートブックの移転価格が問題となり、コクヨは移転価格、その他の基本的な経済条件を事由に決められないことになってしまう。その後、コクヨのノートブックがもしインドで計画通り売れずに赤字が発生した場合、株主間の意見の相違がまた予想される。カムリン社を一者の株主のために利用しようとする限り、他の株主との利益相反が必ず繰り返し起きる。

潜在的な利益相反の問題に二つ目の問題が重なる。片方の株主が残った場合、それぞれの株主の権利関係を定める株主間契約が締結される。例えばコクヨはギリギリ過半数を取得することになっているが、カムリン社創業者が株主・役員・経営者として残ることとなり、株主間契約が必ず締結されているはずだ。予想されるパターンであれば、その契約は色々な形でコクヨのフリーハンドを妨げる条項を含むであろう。典型的な例として、以下の3点があげられる。

相手方株主の経営権・役員としての席の保証、重要事項に対する拒否権
競業避止義務
株の譲渡制限

結局、コクヨはカムリン社を都合よく利用することができないだけではなく、競業避止の結果、直接販売や他社との提携の道も、そして、株を売って手を切る選択肢も譲渡制限のお陰でブロックされるであろう。

日本企業が現地で本格的に自立して、大規模に活躍することをのぞむのであれば、この足かせから解放されないと難しい。このような不安定で対立的な関係は長続きしない。実際、最終的に交渉ベースで一方の株主が片方の株を買い取り、100%を買い占めることになるという結末は多い。予想できるように、仲間別れの交渉は極めて感情的になりがちであり、手切れ金の額も高くなる。

このような不都合を避けるために、いくつかの工夫が考えられる。
 主要目的が自社製品の外国における販売、マーケットの学習であれば、M&Aをせずに地元のディストリビューターとの契約で同じ目的をより効率的に(しかも安く)達成できるかどうかの可能性を十分検討すること。
 株主間契約に最初から相手方株主の株を買い取るオプションを入れること。
買い取りオプションに加えて、既存の経営者の継続的な努力と協力が重要であれば、経営陣のインセンティブ報酬を最初から正しく設計すること。
 ジョイントベンチャーを経験した方ならばわかるように、二者以上が経営権及び異なる経営目的を持つことになると、そのうちにお互いたもとを分かつ日がやって来る。もしやむを得ない事情により、提携型のM&Aをすることになるのなら、その日に備えて十分な対策を検討することが必要である。

 

From Stephen Givens' web site, with permission:

 http://www.givens-gjb.com  

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